

公表されている完全失業率で、その流れを概観すると、1960年代から日本経済の高度成長が破綻した70年代の半ばまでの日本の完全失業率は、1%台であった。
日本は「雇用の優等生」と呼ばれるほどだった。
77年から2%台になるが、それでも欧米との比較で「優等生」であることにかわりなく、その状態が94年までつづいた。
実は、それ以降が問題で(それ以前にも各種の雇用問題があったが)、95年に3%台に乗ると、98年に4%台、2001年から5%台と完全失業率が急テンポで上昇するようになった。
この完全失業率の定義は厳しく、条件の一つとして求職活動をしていなければならないが、あまりの就職難のため雲求職活動をあきらめる人たちも増えている。
いくら時間と費用をかけても仕事に就けないからだ。
いま約10%の失業率になっているというのが専門家の常識になっている(第3章参照)。
雇用問題住第2に正規雇用の減少(6年連続減少経済産業省の「企業活動基本調査速報」)、つまりパートや派遣労働者など不安定雇用の増大という「雇用の質」の劣化としても深刻になっている。
総務省によると、パート、アルバイトなどの「正社員以外」の比率が3割増え、「雇用の非正規化」が急テンポで進行している。
いま「不安定雇用の増大」と述べたが、正規雇用も実はリストラの危機・雇用不安にさらされ、決して「安定雇用」ではなくなってきている。
一定年齢以上の労働者の退職勧奨や、成果主義により成績下位の労働者を解雇する(後述のIBMの例)など、排除の仕方はさまざまだが、いわゆる終身雇用がいま音をたてて崩壊している。
こうした傾向は民間だけではない。
たとえば、「自治体でも数多くの非常勤・臨時の非正規職員が働いている。
自治体の運営に欠かせない戦力だが、正規職員と比べて待遇格差は大きい。
ほとんどは期間に定めのある有期契約で雇用されており、年度末は次年度も働けるかどうかが決まる微妙な時期だ」雇用問題は、そのほかさまざまな点で深刻になっている。
厚生労働省の調査によると、家内労働者がこの7年間で半分に減少する一方、パソコンを使う文書入力など情報通信機器を利用した在宅就業が増えている。
家内労働減少の要因・背景として、雇用問題一般にも通じることだが、製造業における産業空洞化がある。
海外での日本企業の一雇用が、10年前の2倍に増え、とりわけアジアの低賃金を利用した産業空洞化が目立つ。
とくに繊維製品製造業や電気機械器具製造業などが家内労働に大きく依存しており、それらの産業の空洞化が急激だからである。
増加している在宅就業にも深刻な問題がある。
その約6割が口頭の契約であるため、「報酬の支払い」、「仕事の納期」、「依頼される仕事の量」などをめぐってトラブルがたえない。
また、在宅就業者が抱えている問題として、「仕事の確保」が5割以上、「単価が安い」が3分の一となっている(厚生労働省「在宅就業実態調査」)。
そして、このような人びとは如何に仕事量が少なく劣悪な条件で働いていようとも「失業者」には数えられず、公表されている完全失業率を低めるという役割も果たしている。
以上のような雇用問題の深刻化が、終身雇用慣行の急激な崩壊と同時にすすんでいることは指摘するまでもなかろう。
終身雇用にもさまざまな問題点はあるが、それのもつ雇用の長期維持機能が長らく日本を「雇用の優等生」にしてきた。
その崩壊は、労働者に苦しみを強いるにとどまらず、経済成長の有力な装置であった「日本的経営」をも崩壊させ、日本経済をますます混迷させることになろう。
なるほど「労働力の流動化・雇用の多様化」が短期的には企業の「国際競争力強化」につながるとしても、長期的には競争力を低下させるだけでなく、社会不安を増大させ、治安を悪化させるなど、マイナス効果のほうが遥かに大きいことを強調しておきたい。
つぎに賃金問題の現状をみよう。
第一に、賃金が下がっている。
戦後の長い歴史でみても賃下げは初めての事態である。
厚生労働省の2002年の賃金構造基本統計調査によると、まず、パートを除く一般労働者の平均賃金(ボーナス、時間外を含まない所定内給与)は、30万2600円(平均40・一歳)と前年と比べ1・0%減り、現行の調査形式が始まった1976年以降で初めて減少した。
ついで、ボーナスなどを含めた2002年の賃金総額(月平均)は214万3688円(前年比2・21%減)と、2年連続で減った。
また、残業手当などの所定外給与は0・8%減の月平均1万7895円であり、ボーナスなど特別に支払われた賃金は月平均で6万4688円(前年比7・2%減)で、5年連続の減少である。
公務員もすでに賃下げの時代に入っている。
人事院は、03年8月5日、一般職国家公務員の年収を5年連続で引き下げる勧告をおこなった。
これは月例給の2年連続の引き下げ、5年続きの減少となる0・25ヵ月もの一時金の大幅削減、2年連続の扶養手当(配偶者手当)、住宅手当(持ち家)など諸手当の引き下げを含めて、国家公務員労働者の平均年収を過去最大16・3万円も減少させるものである。
前述の雇用不安とともに、こうした賃下げが労働者の先行き不安感をいっそう増幅させている。
連合の「生活アンケート調査」をみても「収入の大幅低下」に関する不安がもっとも多かったという。
賃金問題の第2に、成果主義化を中心とした賃金体系・賃金制度の急激な再編がある。
そのねらいは、すでにみた賃下げ・人件費削減と合い通じている。
これが成果主義化を中心とする賃金体系再編の最大のねらいである。
企業はこの人件費削減が見込めない限り、決して賃金体系の改定をおこなわない。
これは本音中の本音であるが、むろん本音を公表するほど経営者たちは無邪気ではない。
賃金体系改定にはこれを基本に、少なくともあと2つの大きなねらいがある。
一つは、賃金の差別化で労働者間の競争を加速させ、労働強化と労働者の分断をおこなうことである。
勤続年数を重視する年功賃金と比べ、成果主義賃金は目標管理とセットで労働者たちに「成果」を競わせることで、労働強化や労働者の分断が容易である。
いま一つのねらいは、労働力流動化の促進である。
つまり、成果主義賃金の代表的な形態である年俸制を想起すれば明らかなように、勤続年数とは無関係だから労働力を流動させやすい。
企業にしてみれば、「労働力の出し入れ」がきわめて容易になる、出し入れ自由、ということだ。
021年の春闘で「定昇見直し」が一大争点になったが、定期昇給の廃止攻撃は年功賃金の土台(定昇)を崩すことで成果主義化など賃金体系の抜本再編を視野に入れたものであった。
日本Iのように「業績が低い」と会社が評定した下位10%の社員を退職に追い込んでいく、というように「解雇の手段」化した成果主義まで登場している。
こうして前述の雇用破壊と賃金破壊は一体で強行されている。
賃金問題の第21に、最低賃金制の本来的機能の停止がある。
そもそも最低賃金制は、法律に基づいて賃金の最低ラインを決め、それ未満の賃金を禁じることで労働者を保護する社会政策である。
だがそれは、労使の力関係しだいで、改良的機能を発揮したり、逆に「賃金抑制策」に転じたりする。
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